予算を決めずに物件を見る弊害について
マイホーム探しにおいてよく目にするのが、まずはポータルサイト(suumo等)で気になった物件にとりあえず問い合わせをしてみるという方法です。物件の選択においては、自分の適正な予算は気にせず、なんとなく自宅の近くで写真が良さそうな物件をまずは見てみようというケースが多いように感じます。手始めという軽い気持ちだと思うのですが、これがマイホーム探しの迷路にはまる始まりです。ここでは、予算を決めずに物件を見に行く弊害について、私がこれまで経験した事例を元に作成した事例(フィクションです)で述べさせていただくことで、いかに予算を確定することが重要かをご理解いただければと思います。
予算オーバーの物件が基準となってしまう。
Aさん一家(ご夫婦と3歳、1歳のお子様)は予算を決めずにまずは近くの物件を見てみようと5000万円の新築戸建の内見をしました。ご本人はあくまでも参考のつもりですが、初めて新築戸建を見ると現在のアパートよりも広く、設備もグレードが高くこんなマイホームで生活できたらと想像以上にワクワクしてきました。この高揚感はマイホーム購入に踏み切るには重要な要素なのですが、ここで具体的に購入の相談を営業マンにしてみたところ、ご年収等の事情から住宅ローンは4000万円程度しか借りられないことが分かり、自己資金も200万円程度なので手が届かないことが分かりました。
そこでAさんはこれを教訓に4000万円以下の物件で本格的にマイホーム探しをすることにしました。ところが、スーモで検索すると自宅周辺の相場は高く、4000万円以下の新築戸建はなかなかみつかりません。やっと見つかって喜んで内見してみると、前回見た5000万円の物件と比べると日当たりは悪いし土地も狭い、リビングも狭くキッチンやお風呂のグレードも明らかに低いのです。前回の物件を見た時のようなワクワクする感じは全くしません。
当然、購入を検討する気にもなれませんでした。
そのうち掘り出し物がでるだろうとスーモを検索してたまに内見を繰り返しますが、どの物件も満足するものはありません。新築が無理ならと中古戸建や中古マンションを見ましたが、やはり新築と比較すると外観、内装ともに築年数相応の劣化が気になり購入する気にはなれません。
いつの間にか探し始めて2年が経過してしまいました。
現在は、駅からの距離をもっと伸ばすか、沿線を下るかの妥協も考えておりますが、子供はいつの間にか幼稚園の年長になり友達もできました。現在の住まいの学区の小学校への進学させたい気持ちもあり、いまだに方向性が定まりません。2年間のマイホーム探しの疲れもあり、マイホーム探しのモチベーションも下がってしまいました。
もしAさんが購入可能なしっかりとした予算を決めてから物件探しをしていたらどうでしょう。
当然、予算オーバーの5000万円の物件を見ることはありません。
予算内の4000万円以下の物件だけ見ていれば、それでも現在お住まいアパートよりは広くて設備のグレードも高い物件はあるので、ワクワクして高揚感から思い切って購入に踏み切れていたかもしれません。
マイホーム探しの一番最初に見る物件はマイホーム探しの基準となります。
基準にしようと思わなくても、それ以降に見る物件と無意識に比較してしまうのです。一番最初に見る物件が予算オーバーのハイグレードな物件だと予算内の物件を「購入基準以下」という目で見るようになってしまい、マイホーム購入が難しくなってしまうのです。
欲しい物件に予算を無理やり合わせてしまう。
先ほどのAさんが、もし5000万円の住宅ローンを組むことが可能だった場合のお話です。営業マンよりご年収から何とか5000万円の住宅ローンは組めます。月々の返済は13万円です。と言われたAさん。現在の家賃は月々10万円で普段の生活は貯金は増えないけれど、なんとか維持できている程度の生活でしたが、奥様も気に入っており、この物件が欲しくなってしまいました。すぐには決められないので、翌週に月々10万円の支払いに納まりそうな4000万円前後の他の物件もいくつか見てみましたが、どれもあまり魅力的には思えず購入する気にはなれません。
やはり先週見た5000万円の物件は外観も内装も申し分無く、これ以外の物件は欲しいと思えません。奥様と相談して、
・節約すれば月々3万円は捻出できる。
・いずれ年収も上がる
・住宅ローン控除というのもある
・営業マンにも「Aさんくらいのご年収ならこれくらい普通です」と言われたから大丈夫
等の理由から、思い切ってマイホーム購入に踏み切りました。
その後、、、、、。
- 子供2人が小学校に上がると、習い事や塾で生活費は上昇。
- マイホームのグレードに相応しい車が欲しくなり大型のSUVをローンで購入。
- やはり周辺の生活レベルに合わせて節約生活はできず、、。
- 会社の業績は低迷し、基本給は伸びずボーナスは減少。
- 固定資産税が重荷。
- 子供が小学校高学年となるとスマホ代もかかるようになる。
- 子供が高校生になる頃には住宅ローン控除も終了
- 金利も今後上昇しそうな雰囲気で不安材料ばかり。
上記のような経緯で奥様は扶養内のパートをしておりますが、現在のところ貯金はほぼ無く、車検やエアコン等の大きな買い物はカードローンを利用しており、すでに残高は上限の200万円近くとなっています。今後子供が高校、大学と進学するにあたっての教育資金については教育ローンや奨学金の利用を考えておりますが、それでも相当切り詰めないと住宅ローンの返済が滞ってしまいそうな状況です。
何で無理してこんな高い家を買ってしまったんだろう。思い返せば何も考えずにスーモで写真がきれいだったこの家を参考に見てみようと思ったのが始まりでした。しっかり将来のライフプランも考えて予算を決めてからマイホーム探しをするべきだったと後悔しています。
住宅ローンの借入可能額の上限は、生活を一生懸命切り詰めれば住宅ローンだけは返済してくれるだろうと銀行が考えている金額です。その上限金額近くのお借入れをした上で贅沢な生活をするのは難しいということを知っておくべきでしょう。
まとめ
短い記事となりましたが、予算を決める重要性についてフィクションの事例を元にご説明させていただきました。
フィクションとさせていただきましたが、不動産売買の営業マンを10年、メガバンクの住宅ローン担当を8年経験したので、多数のお客様を見ております。銀行ではグループの保証会社にて多数の破綻事例を元に審査方法を学ぶ研修を受けたこともありますし、私自身、現在2人の大学生の子供がおり、マイホーム購入後、子育て期間中にどれだけ生活費や教育費が上がるのかを身をもって体験しております。
そのような経験を基に、よくあったケースとしての事例を記載させていただいた次第です。
何を隠そう、そんな私も電柱の矢印看板に誘導されて発見した建売住宅に一目惚れして購入してしまった1人です。(当時は不動産営業マンになる前でした)
当時は埼玉県東松山市という池袋から電車で一時間弱という郊外に住んでいたので、幸い価格も低く、結果的に返済に余裕のある住宅ローンでマイホームを購入できましたが、もしその時に都内に住んでいたとしても同じような行動をしていたでしょう。
「マイホーム購入は一生に一度なので、失敗はできない」という言葉をよく聞きますが、私はこの言葉は好きではありません。物件の良さを重視する余り、かなり無理のある資金計画となってしまっている方が多いように感じます。
物件重視ではなく
「マイホーム購入は一生にかかわることなので、予算の失敗はできない」
というお気持ちが良いと思います。
予算に無理をしなければ、将来お住み替えができる可能性も高まり、一生に一度と考えなくても良いかもしれません。
まずは最初に予算をじっくり検討してから物件を見に行きましょう。
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