私はメガバンクの住宅ローンの部署(ローンプラザ)に8年間従事しておりました。なので住宅ローンの相談経験や審査の実務については、一般の不動産営業マンやFPさんよりも自信はあります。
ここでは住宅ローンの審査における基本的な考え方について述べさせていただきます。住宅ローンの審査の実際が分かると、銀行がどのような目線で借入希望者の返済能力を判断しているかが分かります。銀行は過去の蓄積したデータを元に審査をしておりますので、その審査方法が分かれば、あなたの返済能力について自分でも計算できるようになります。
基本的な考え方
住宅ローンはマイホーム購入資金を借りることです。お金の貸し借りということであれば、広い意味ではあなたが友人にお金を貸してくれと言われた場合も同じです。例えば友人に「お金を貸して欲しい」と言われた場合、何が気になるでしょうか?一般的に気になると思われるのは
①何に使うのか
②いくら必要なのか
③いつ返してくれるのか
④他にも借りているのではないか
➄返せる目途はあるのか
といったところかと思います。
住宅ローンの審査においては、銀行がお金を貸す側となるので、借入を希望している人に対して同じような部分を確認しようとします。先程の例を使えば、
①何に使うのか→(資金使途)
②いくら必要なのか→(借入金額)
③いつ返してくれるのか→(返済期間)
④他にも借りているのではないか→(他の借入、個人信用情報)
⑤返せる目途はあるのか→(年収や収入の安定性)
となります。
住宅ローンでは、上記の内容を記載する借入申込書とともに、その内容の確認に必要な資料を提出して審査を受けることとなります。
返済能力の判断基準
先程述べさせていただいた審査項目の中で、①~③につきましては住宅ローンなので、購入希望物件とそれに必要な借入額及び返済希望期間となります。これは最終的に購入したい物件が決まらないと確定しない部分ですので一旦置いておきます。
ここでは物件を探す前に、どれだけ借入できるのかという本人の借入可能額に影響する
④他の借入や個人信用情報
⑤年収等
についてご説明させていただきます。
他の借入や個人信用情報
・他のお借入
他にお借入れがあるということは、普段の生活で収支がマイナスとなっているのではないかという疑念が生まれます。普段の生活支がマイナスの方にお金をお貸するのはリスクがあります。当然その内容を吟味する必要が出てきます。
・個人信用情報
お借入れをしていると、個人使用情報を蓄積している機関にデータが残ります。お借入れの有無だけでなく、毎回の返済が正常に行われているか、延滞や貸し倒れが無いかも表示されます。住宅ローンでは金融機関は当然この情報を取得して審査に利用します。延滞は返済のお約束の期日にお支払いしていないこととなりますので、普段の資金繰りに困っていたり、ルーズな性格で約束を守ってくれない人と思われやすいですし、貸し倒れはいわゆる「借金の踏み倒し」ですので、そのような履歴のある方には普通はお金は貸したくないですよね。
年収や収入の安定性
・年収
そもそも年収が高ければ、その分返済能力が高いと思われます。他の要素を考慮しなければ年収が高い程、お借入れはし易い計算になります。サラリーマンの場合、一般的には前年の年収をベースに計算する金融機関が多いです。
・収入の安定性
前年の年収だけで全て判断できるかというと、そうではありません。自営業や歩合比率の多い営業職のサラリーマンの方でたまたま昨年だけ年収が高い場合もありますし、勤務先の業績悪化や不祥事により今後の収入が減少するかもしれません。また、ご年齢によっては数年後には定年退職となりその年収が維持できる期間は短いかもしれません。そのような目線で弾力的に安定性を判断されます。
一般的に公務員の方や上場企業のサラリーマンの方が審査が通り易いと言われるのはこのためです。
基本的な審査の計算
それでは実際にはどのような審査がされているのでしょう。まずは年収に対してどの程度まで融資するかの上限が各銀行で決まっております。これはを計算するのに使用する数値として「返済比率」と「審査金利」があります。
返済比率
これは一年間の住宅ローンの返済額が、年収の何%となるかという数値で、銀行により30%から40%程度に規定されています。例えば年収500万円の人の場合、返済比率40%の銀行ですと、住宅ローンの年間返済学生が200万円が上限となります。
審査金利
先程の年間返済額を計算するには、お借入額を何%の金利で借りた場合なのかによって計算結果が変わってしまいます。住宅ローンは融資期間が長く、その間には金利の変動の可能性があります。現在の低金利の場合での年間返済額で審査しても将来金利が上昇すると返済できなくなってしまうかもしれません。そこで各銀行とも将来の金利上昇の予測も含めた高めの金利で年間返済額を算出して審査することとしております。これが「審査金利」で、現在は3%から4%辺りの設定の銀行が多いです。参考として3000万円の住宅ローンを35年返済で借りた場合、審査金利3%の銀行ですと月々の返済額は115.455円、年間返済額は1,385,460円となります。
練習問題
A銀行の返済比率は上限40%、審査金利は3.5%です。年収500万円のBさんは4000万円,35年返済の借入を希望しておりますが、借りれる可能性はありますでしょうか?(4000万円を35年返済、金利3%の場合、月々153941円とします)
回答
月々153,941×12=1,847,292円(年間返済) 1847292(年間返済)÷5000000(年収)=36.9%
上記の計算より、36.9%が今回のBさんの返済比率となり、A銀行の上限の40%以内ですので、お借入できる可能性はあるというのが正解です。
ここで「お借入できる可能性はある」と申し上げたのは、あくまでも返済比率上限は、各銀行内で規定している融資上限なので、誰でもその範囲内なら融資する訳ではないからです。ただ、この上限にすら治まっていない場合には一部上場企業勤務の方でも公務員の方でも融資してくれる可能性はありません。
他にお借入がある場合
住宅ローンの審査時点で、既に他のお借入がある場合には、その年間返済額も含めて返済比率に収まる必要があります。例えば先程の練習問題のBさんがマイカーローン200万円(3年返済、月々4万円ボーナス返済10万円×2)を借りていたとします。すると計算は下記のように変わります。
住宅ローン 月々153,941×12=1,847,292円
マイカーローン 40000×12+100000×2=680,000円
2件合計 2,527,292円(年間返済額)
2,527,292円(年間返済額)÷5,000,000(年収)=50.5%
A銀行の返済比率条件である40%を大きく超過しているので、借入できる可能性はありません。
借入をするには大幅な借入額の減額が必要となるでしょう。
(オートローンを全額返済する自己資金がある場合には、その条件にてお借入ができる場合があります)
尚、今回はマイカーローンの事例ですが、他のお借入も基本的には同じ考え方となります。またカードローンやクレジットカードのキャッシング枠、リボ払い等については、各銀行により計算方法は変わる場合があります。 いずれにしても他のお借入れは、住宅ローンの借入可能額に大きな影響を及ぼします。
経営者、自営業者、歩合比率の高い営業職の方
ここまでの計算はサラリーマンの方を前提にしておりましたが、会社経営者や自営業者(フリーランス)の方の場合には少し事情が変わります。
とは言え、年収がベースとなることには変わりが無いのですが、会社経営者や自営業者さんは一般的に収入の変動が激しいと銀行は認識しているので、直近の年収だけではなく過去3年分の年収の推移を見て審査のベースとなる年収を算出します。
オーソドックスな方法は、3年平均の年収と直近の年収を比較して低い方を採用するという方法です。
例えば
令和2年 500万円
令和3年 600万円
令和4年 400万円
という過去3年の年収だった場合には平均は500万円なのですが、直近の400万円の方が低いので、審査上の年収は400万円となってしまいます。
また、その他に自己資金比率という基準があり、会社経営者や自営業者さんは物件価格に対して10%から20%程度の一定の自己資金(頭金)が入ることを条件とする場合が多いです。
例えば3000万円の物件価格の場合で、自己資金比率20%となると600万円なので、差し引きで2400万円までしかご融資できませんということです。これは年収とは別の観点のものなので、審査上の年収がどんなに高くても自己資金比率は求められます。
審査に通れば返済の心配は無い?
ここまで住宅ローン審査の基本を説明させていただきました。それでは住宅ローン審査が承認となれば、今後の返済には支障が無いのでしょうか。答えはNOです。
住宅ローンは、個人が一般的に借りる他のローン(マイカーローンやカードローン)と違い、購入する不動産に抵当権を設定します。(担保に取るという意味で有担保ローンと言います。マイカーローンやカードローンは一般的に担保に取る条件は無いので無担保ローンに分類されます)
マイホームに抵当権が設定されるということは、住宅ローンが返済できなくなると銀行が差し押さえをして競売に掛けることができるということです。要するに返済できなくなるとマイホームを失う可能性があるということです。
これがあるので、銀行は「住宅ローンだけは何とか返済するだろう」という認識があり、審査の上限ラインは、「生活を一生懸命切り詰めれば何とか返済はできるレベル」と考えて下さい。
「不動産会社で返済例を教えてもらったけど、そこまで高額ではないよ」と感じている方もいるかと思いますが、それは変動金利の最優遇金利での返済額ではないでしょうか?
住宅ローンは最長で35年(最近は40年ローン等もあります)の長期の返済期間となります。当然その期間内には世の中の情勢は変わり、金利も変動する可能性があります。銀行としては先ほど述べた「審査金利」程度の金利になった際にも「何とか切り詰めれば返済できる」ラインを上限に設定しているということです。
よく、返済に問題が無いレベルは年間返済額が年収の25%程度までという記事を見かけます。もちろん年収に対する返済比率は低い方が安全なので、この理論の方が正しいですが、これも一般的な目安にすぎません。40代後半や50代の年収が高い方が、その25%の返済比率に収まる借入なら大丈夫かといと、定年までの期間が短く返済期間中その年収を維持できません。退職金による繰上げ返済や、再雇用時、定年以降の年金の見込み等も検討して返済の可否を判断する必要があります。
実際の返済可能な借入額は?
実際にはどの程度の借入までは返済が可能かについては、ご自身のライフプランを考慮して検討する必要があるのですが、マイホーム購入の為に住宅ローンや金利の知識、ライフプランについての知識を勉強して検討してからとなると、いったいどれだけ勉強すれば良いのかということになってしまいます。
このような理由からマイホーム購入の際にはファイナンシャルプランナーにご相談がおすすめです。
どのようなファイナンシャルプランナーに相談すれば良いかというと難しいのですが、机上の知識ではなく、実際に人生経験があるファイナンシャルプランナーがおすすめです。
ご相談窓口(埼玉県でお住まい探しをする方)
完全にポジショントークとなりますが、参考までに私はこれまでに、公務員、置き薬の営業、ゴルフ用品メーカ―の営業、不動産仲介営業、メガバンク(住宅ローン業務)、新築戸建分譲の営業等で転職は8回、年収も350万円~1400万円程度まで幅広く経験しております。20年前の不動産営業に携わる前にマイホームを購入して2人の子供は間もなく大学を卒業するところです。
子育てにかかる費用や学費は一通り経験しましたし、マイホーム購入は200件以上、住宅ローンの申込や審査の相談は少なく見積もっても500件以上の経験がありますので、単なるライフプランニングだけではなく、これまでの経験も踏まえての資金計画をアドバイスできると考えております。
宅建とFP2級は所持しており、現在埼玉県において現役の不動産仲介営業をしております。
(取り扱う不動産に縛りはありませんので、売りたい物件価格に、お客様の適正な借入額を誘導する必要もありません)
埼玉県でのお住まい探しを念頭に置いている方であれば、適正な借入額のご相談に乗れますので、お気軽にお問合せをいただければ幸いです。
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